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zoom RSS 「江戸しぐさ」滅ぼすべし、杉浦日向子さんのために

<<   作成日時 : 2014/09/25 06:37   >>

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 10年ほど前にNHKで、『コメディーお江戸でござる』という番組を放送していました。伊東四朗を座長に桜金造やえなりかずきら脇を固めて、江戸時代の人情ものの演劇をやり、そのあとゲスト出演の演歌歌手が一曲歌う、という実にNHKらしい公開バラエティ番組だったのですが、この番組にはもう一つ、他にはない特色がありました。
 それが、歌が終わった後に登場する、江戸風俗研究家の杉浦日向子さん。「おもしろ江戸ばなし」と称するコーナーで、先ほど演じられた舞台と実際の江戸時代の風俗との差異を伊東四朗らに解説していました。たとえば「『ふんどし以外は何でも買い取ります』という古物商が出てきたけど、江戸時代はふんどしさえもリサイクルした」というような、時代考証の間違い探しです。
 もちろん、演劇は「時代劇」というフィクションです。創るのも楽しむのも江戸時代の人間じゃなく、現代の人間です。そのために現代感覚から見栄えの悪い「江戸時代の既婚女性はお歯黒をしていた」というような史実は無視せざるを得ません。そういったフィクションの場にあって、時代考証の誤りを指摘するといういっけん野暮な役回りを、杉浦日向子さんが務めることができたのは、和服姿の物腰のやわらかさ、垣間見える気っ風の良さという杉浦さん本人の魅力であり、いうなれば「お江戸のアイドル」だったのです。そんな杉浦日向子さんが番組を降板したのは2004年。世界漫遊などという理由でしたが実際は酒の飲み過ぎによる癌であり、石川英輔が解説役を継ぎフォーマットは引き継がれたものの、事実上、2005年の彼女の死去とともに、教養高い娯楽番組『コメディーお江戸でござる』は終了したのです。

 さて、この『江戸しぐさの正体』が紹介する「江戸しぐさ」なるものに、杉浦日向子さんは一切関わりを持っていません。むしろ彼女の死後に、世間に現れはじめた、ともいえるでしょう。2006年にAC(公共広告機構)がテレビで流し始めた「江戸の商人たちの知恵」。たとえば「時泥棒」という教えは、「江戸では遅刻が10両に値する罪だった、だから時間を守ろう」というものなのですが、季節によって時間配分が変わる不定時法で、時計と言えば大名や豪商の贅沢品に過ぎなかった江戸時代に、そんな厳格な概念があるわけがない。「NPO法人・江戸しぐさ」が流布する、現代社会にも通用するマナー集は、なんのことはない、戦前生まれの創始者・芝三光が、その経験をもとに創作した「現代のマナー」だったのです。
 この姿勢は、『コメディお江戸でござる』で見せた杉浦日向子さんの態度とは全く正反対のものです。杉浦さんは「現代人がウソをウソとして楽しむための正しい知識」を提供してくれました。一方で「江戸しぐさ」は「嘘」そのものです。しかもたちの悪いことに小中学校の道徳の教科書にも掲載され「現代人を矯正する」道具ともなっている。まさに江戸時代の捏造、杉浦日向子さんへの冒涜です。

 もっとも、教育への汚染については、私はあまり心配していません。むしろ『江戸しぐさの正体』にて創始者の芝三光および現在の指導者である越川禮子の来歴を読むことでそれを確信したというべきか。まず「江戸しぐさ」の起源は芝三光が横浜で習った帝国海軍や米軍のマナーであり、その死後に越川禮子が脚色して発展させた、各方面に喧嘩を売る表現をすればイエスとペテロの関係にあります。しかしそのペテロ役の越川禮子は1926年生まれ、杉浦日向子さんが生きていたとしても遙かに年上で、まさにくたばりぞこないです。どうやら「真の江戸しぐさ」を主張する芝三光の直弟子系列の団体もあるそうで、越川の死後に破綻することが目に見えています。
 そして不幸にも「江戸しぐさ」の教育を受けてしまっている現在の小中学生、これもたぶん大丈夫です。なにしろ「江戸しぐさ」自体がつまらない。賢い子供は馬鹿にして、賢くない子供は忘れる。古来教師の言うことをそのまま信じる子供がいたものか。そして本当に面白い江戸時代を知ること、たとえば男子向けには「江戸の銭湯は混浴だった」という話や北斎や英泉らが描く春画の数々、女子向けには雨森芳洲が朝鮮通信使に男色について問われ「学士はその楽しみを知らざるのみ」と言った話や「東海道中膝栗毛」の弥次喜多の関係など、パロディではない文字通りの「エロしぐさ」により、確実に駆逐されるでしょう。氏家幹人先生あたりに、ちょっと十代向けの本を書いてほしいところです。

 どちらにせよ、「江戸しぐさの正体」は、最初に商業出版された江戸しぐさ批判本として、有効打の一つです。教育界におけるトンデモの氾濫をすぐに政権批判に結びつけるのは、対象が拡散しすぎてあまり筋がいいとは思えないのですが、どちらにせよ「江戸しぐさ」撲滅のために共闘していきたいと思っています。杉浦日向子さんのために。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
私も「江戸しぐさの正体」読みましたよ。教育に従事している方にも是非読んで頂きたいところです。ところで、本書へのリアクションとして、江戸しぐさ側では「江戸しぐさを、江戸期に完成されたマナーだと思い込むのは勝手だが、江戸しぐさが、知識やマナー等ではないことは、越川先生も何度も説き続けてきたことであり、生成発展し続けるのが江戸しぐさなのである。」と反論しているようですね。捏造を半分認めているようなものですね。
味噌煮込み
2014/09/28 00:36

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