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zoom RSS 【映画:帰ってきたヒトラー】笑い事ではない笑い事と、380時間の生データ

<<   作成日時 : 2016/07/06 22:02  

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 ドイツで話題を呼んだベストセラーの映画化。
 邦訳版が出版されたときも感想を書きましたが、映画版もとんでもない内容でした。

 脚本は原作からかなり改変されていますが、だからといって改悪されてはいません。「原作がドイツで話題になった」という事実を逆手にとって、現実と虚構のあいだの危険な綱渡りを観衆に体験させます。

 とくにすごいのは、冴えないテレビマンのサヴァツキ氏が、トルコ人経営のキオスクでヒトラーを見出し、映像素材を集めるためにドイツ中を回り、ヒトラーと市民たちを対話させるところ。原作ではヒトラー発掘からすぐテレビ局に採用されますし、映画のサヴァツキ氏もクビにされて金がないんだからそうすればいいのに、とそのシーンになった直後は思ったものですが、これこそが本作品のキモ、と言ってもいい出来栄え。

 いや、映画作品としての出来栄えはあんまりなのです。なにせ対話の相手は素人さんですから。ただし、行われているのは「現代のドイツにヒトラーが現れたらどういう反応が出るか」というとんでもない社会実験なのです。もちろん当人が本物のヒトラーだ、と認識しているのは作中のヒトラーだけで、作中・作外のサヴァツキ氏、ヒトラー役を演じているオリヴァー・マスッチ氏、そして市民と、その場の全員が「虚構のヒトラー」だと認識したうえで対話しています。しかし、マスッチ氏と違って市民は演技の素人なのですから、「ヒトラーに現代ドイツの問題を語る市民の演技」のなかに本音が混ざります。

 「私はこの国のためなら死んでもいい」はまだ素人さんの演技中かもしれません。
 しかし「この国の問題は毎年増える髭モジャの奴らだ」は、笑いごとじゃない本音ではあるまいか。

 パンフレットによると、市民と対話する「飛び込みヒトラー営業」は、延べ380時間かけて撮影したものを、ドラマに納まる範囲の30分ほどに凝縮したもののようです。あまりにも平凡な意見や危険な意見を除いたうえでの編集でしょうが、没になったものも含めて、380時間ぶんのドイツ市民の「生データ」が、この映画の制作過程で収集されたわけです。調査において得られる生データというのは実に面白いもので、もちろん大量にあるから発表時には抽出したり、統計値にしたりと加工する必要が生じるのですが、生データから感じ取られるぼんやりとした雰囲気(世論)は調査方法自体に疑いを投げかけえますし、少数の意見から明確な切り口(輿論)が提示されることもありえます。マスッチ氏およびコンスタンチン・フィルム社が獲得した380時間分の映像情報というのは、きわめて政治的に価値のあるデータなのです。

 この映画のドイツ国内での制作・公開は2014年ですが、それより2年後の日本語上映を見ている私たちは、状況がさらにとんでもなくなっていることを知っています。EUの旗を焼いている映像もキツさが増幅されていますし、「トルコが戦局を変えたのか」という蘇生直後のヒトラーの台詞も、時代背景を間違えた勘違いでなくなりつつあります。ヒトラーは死んだのですから、ヒトラーは蘇りません。ただヒトラー級の政治家が現れる可能性は十分にあります。そしてそれが、ヒトラーを演じる中で380時間分の大衆の本音を得た、映画俳優オリバー・マスッチ氏である可能性もゼロじゃない、と思っております。

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